月瀬りこ (脚本家 • 小説家) 第30回フジテレビヤングシナリオ大賞佳作受賞 「笑顔のカタチ」/ 「New Film Makers Los Angeles」🇺🇸『フローレンスは眠る』2018年度年間最優秀長編作品賞受賞(共同脚本)/ 電子書籍小説 「コロモガエ」などAmazonほかで配信中 / 舞台脚本 / ホラーDVD/オムニバス映画ほか/ WebCMプロット/ 企業PJ / PVシナリオ/コピー/ 取材ライターほか

月瀬文庫

わが家での日々。お父さんシリーズエッセイ

父、暴走。恐怖の回転ずし

 

テーマ:お父さんシリーズ


父は食べるのが大好きである。

昔から、色んな食べ物屋さんに連れていってくれた。
しかしそのどこもが、 恐ろしく汚いが美味しいというホルモン屋さんだったり、カエル専門料理の店であったり、帰りに無理心中するんじゃないかと心配するくらい敷居の高い店であったりと、とても子ども連れで気軽に入れる店ではなかったりした。
だから、私は「家族でファミリーレストランに行く」というのがその当時の小さな夢だった。

昔はお鮨屋さんも回転していなかった。瀬戸内の小さな町だったので、お鮨は回転しなくてもよかったのだと思う。
しかし、時流のせいもあって小さな町にも続々と廻るお鮨屋は増え続けた。
私が大人になって実家に帰省する頃にはあちらこちらに回るお鮨屋があった。

大人になって、私が初めて父と一緒に回転鮨に行ったときのことである。
大型連休で兄家族や妹も集まっていた。
人数が多かったため、ふた手に分かれて席についた。兄と兄嫁、父と私が同じ席だったように思う。
母は妹たちや姪っ子たちと別の席に座っていた。

賑やかに食事が始まったとたん、ある事に気がついた。

父がお鮨を食べている。
が、皿がない…。

私はハッとした。兄と兄嫁もハッとした。

父の後方に流れていく、空の皿。

「あっ!お鮨だけ取ってる?!」

なんてことをするんだ、このオヤジ!
私は急いで皿を追っかけた。恥ずかしいったらありゃしない。
父の食べたであろう皿をゲットして席につき、
「お父さん!お皿ごと取ってよ!食い逃げするつもり?!」
と、私は父を叱った。が、父は、無意識なのかとぼけたフリなのか、
「あ、そっか」
と、ニヤニヤ笑っただけだった。
最初は兄と兄嫁も、困ったもんだと笑っていた。

しかし、注意した矢先に父は二回それを繰り返した。

システムを知らなかったのか…( ̄▽ ̄||)

父がお鮨を食べるたびに皿を追っかけ父にしつこく教え込む私。

おまけに、プリンを取って、やっぱりやめたと返そうとする。
「こらっ!一回取ったもの返したらいけない!」
「あ、そっか」

恥ずかしかった。この上もなく恥ずかしかった。

帰りに母に聞いた。
私「お父さん、回転鮨は初めて?」
母「ううん。最近よく行くよ」
私「……上だけ取るんだけど」
母「いっつもよ」
私「……( ̄ー ̄) 」

やっぱり確信犯だったのか…?!

母が父と同席をしなかったわけがよくわかった。

未だに、どこまで本気で生きているのかよくわからない。

そういえば、食べ物で思い出した。
父が食べかけのソフトクリームを母にあげると渡したが、
「それだけは絶対にイヤっ!!」
と、母は言い張った。
「相手の食べたソフトクリームを食べられるか食べられないかが愛のモノサシ」であると我が家では語り継がれている。