月瀬りこ (脚本家 • 小説家) 第30回フジテレビヤングシナリオ大賞佳作受賞 「笑顔のカタチ」/ 「New Film Makers Los Angeles」🇺🇸『フローレンスは眠る』2018年度年間最優秀長編作品賞受賞(共同脚本)/ 電子書籍小説 「コロモガエ」などAmazonほかで配信中 / 舞台脚本 / ホラーDVD/オムニバス映画ほか/ WebCMプロット/ 企業PJ / PVシナリオ/コピー/ 取材ライターほか

月瀬文庫

わが家での日々。お父さんシリーズエッセイ

父、暴走。悪夢の個人懇談

 

中学三年生の時の話。

高校受験も押し迫り、生徒もソワソワ、先生もソワソワ。

お決まりの 個人懇談が行われることになった。

込み入った話もするのだろう。
当事者抜きの先生と親の懇談である。

通常は母が対応していたのだが、その時はどうしても何かの用事で来られないという。

日程を変更してもらおうとしたが、なんと、父が代打で出席するということになった。

正直…やめてくれ…( ̄▽ ̄||)と思った。

父がまともな対応をする人間だとは思えない。

母も、きっと日程変更を申し出てくれると思っていた。
しかし、進路も決まっていたという安心からか、 何と母は父が出席することを承諾してしまったのだ。

最悪だと思った。

絶対に、無事に終わるわけがない。

半泣きでやめてくれと泣きついたが、
「大丈夫よー。お父さんにも、はいはいって言っておけばいいって言ったから」
と、母には私の心の叫びは届かず、あっさりと却下された。

私の心配をよそに、その当日はやってきた。

生徒は完全下校。

どうすることもできない。

父には、受験する高校も伝えてあるし、もう、信じるしかない。

そうだ、父だって、大人だ。

社会人として、立派に生きている。

先生を前にきっと紳士な態度で臨むだろうと、自分を無理やり納得させ、家路に着いた。

夜になって、懇談からそのまま仕事に行った父が帰宅した。
さっそく「どうだった?!」と聞いた。

「うん、はいはいって言っておいた」
と父は答えた。

ある意味、気が抜けた。
「ありがとう…」

何だ、心配するほどでもなかったかと、母とも笑っていた。

次の日、学校へ行った私は、いつもと変わらぬ学校生活を送っていた。

しかし、その時は来た。

担任の様子がおかしい…。

何かを言いたげにしているのがハッキリとわかった。

嫌な予感がした。

担任は、放課後まで待てなかったのか、掃除の時間にコッソリと私に話かけてきた。

「本当にいいのか?」

担任は、そう言った。

「はい?」

言っている意味がわからなかった。

何が本当にいいのか、なのだろう。

(なんだこの会話、イヤラシイ感じすらする)

私は担任に何の事かと聞いた。


すると、担任は衝撃の言葉を発した。

「進学せずに、許婚と結婚していいのか?!」

「はぁぁぁぁーーーー?!」

白目になった。

「進学する高校はここで間違いないですか?」
という担任の問いに、父は、

「うちの娘は進学しません。実は許婚がおりまして、中学を出たら花嫁修業をさせ、16で結婚することが決まっております」

と言ったというのだ。

やられた…と同時に、やっぱりやったな…と思った。

もう気絶してしまいたいと思った。

私は苦悩の表情を浮かべる先生に、とにかく完全否定をした。

家に帰って父を問い詰めると、ニヤニヤと笑っていた。
母は「また、余計なことして」と言ったが、やりかねないと思っていたのかそれ以上何も言わなかった。

先生がそんな話を本気にするはずがないと思っていたようだ。

しかし、それから何度も担任は私の進路を心配し、本当に許婚はいないのかと確かめてきた。

存在しない許婚に振り回され、途中、自分でも本当はいるんじゃないかとも不安になりながら、私は、
「絶対にいません」

と受験の日まで答え続けたのだ。


お調子者の父の暴走は今も続いている。

元気な証拠だと、やっと最近理解しようと思いはじめた。